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「Exitの扉は、扉を開ける者の欲求によって、繋がる世界が変わるんだ」
イコスはその鍵穴に針金を入れて、がちゃがちゃと扉を開けようとしていた。
いや、針金ってお前。
どんな盗賊だよ。
開くのかよ。開くのかよこれ。
いや、針金ってお前。お前。いや、お前。
「繋がった世界は…眠りの世界だったね。ということは、アミダがこの扉を開けた?」
「違う、開いてた」
「そ」
「…じゃあここから出たいと思えば、出れるんだよな?」
「ああ、もちろん。でもベカが、捕まったかも知れない」
しくじったか、とアミダが舌打ちした。
それがあまりにも自然だったので、驚いた。
この状況でしくじったなんて、どこの戦時中だろうか。
…いや、これは戦争だった。
「ベカを取り戻すのはもちろんのことだし…そうなってしまったからにはイエスのこともある」
言って、イコスは感嘆の声をあげた。
扉が、開いたのだった。あの針金で、針金で。
「すげえ、俺すげえ……まぁ、そんなわけで。君たちにグラップを倒す武器を与えよう」
ふふ、と鼻で笑ってイコスは扉を開けた。
そこから飛び出てきた物は――
(#41 I 08.05.29)
「やっぱりポケモンにはポケモンだよね。」
あぁ、社会でそんなんならった、ハンムラビ法典とか懐かしいなぁ。
「質問。このモンスターボール何?」
アミダは頬を引きつらせて訊いた。イコスは自信満々そうな顔をして答えた。
「何って、モンスターボールにはポケモンがいるにきまってるじゃないか。」
「俺はどっちかというとその中のポケモンを知りたい。」
「僕がまだ呪いをかけられる前に使っていたポケモン達さ。中のポケモンなんだったか忘れた。
でも勿論自分でどうにかしたいけどさ、呪いの所為か、以前の自分の持ち物に触れないんだよね。」
イコスは目の前にあるモンスターボールに触れようとした。
が、イコスの手はもう少しでボールに触れられるというところで止まった。>
「ほら、分かりにくいかもしれないけど、触ろうと近づくとどうしても手が動かなくなる。」
「はーん、なるほど、それで俺らにそのポケモンでグラップ達と戦って欲しいと。」
「流石ウィーナ、話が早い!あっ、ちなみに君達、グラップの側近のポケモンのこと知ってる?」
「知らない。初耳だそれ。」
アミダがそう言うとイコスは「あ、しまった。」という顔をした。
この街に入ってから結構経っているからもしかしたら見てるかもしれない、という期待を裏切られた感じだ。
やはりグラップもそこまで馬鹿じゃない。そんな簡単に切り札的存在の側近を見せるわけなかったんだ。これはやばい。
(#42 N 08.05.29)
「・・・そうか・・・見たことないのか・・・」
イコスはため息をついて、肩を落とした。
「まず敵を知らないことにはなぁ・・・」
「いやその前にさ、味方のことも把握しきれてないよな・・・このボールの、中身」
ウィーナはボールを見つめて言った。
3人の間に重い沈黙が流れた。しばらくしてアミダが、そんな重い空気を吹っ飛ばすように叫んだ。
「・・・とにかく、なるようになるよ!ベカはともかく、このままじゃ・・・イエスがかわいそうじゃない!」
イコスとウィーナははっとして顔を上げた。
そして、そうだ、というようにうなずいた。
「ここからなら走って5分ぐらいで行けるな・・・よし、・・・急ごう!」
ウィーナはそう言うなり勢いよく走り出した。
イコスとアミダも全速力でウィーナの後を追った。
すでに空は濃紺色になり、星がいくつか輝いていた。
一方ベカは、薬を塗った短刀を握っているイエスと、グラップの側近であるゲンガーとムウマージに囲まれていた。
ベカは何も言えず、黙って座り込んでいた。
「ま、無謀なチャレンジャーよ、よくやった、ってとこかな。」
ゲンガーがつぶやいた。ムウマージがクスクス笑った。
その時、遠くに何者かの影が見えた。
(#43 W 08.05.29)
「あっ……ウィーナ!」
ベカがそう叫ぶ。少し遅れてイコス、アミダも走ってきているのが見えた。
「イエス! …その短刀は…もしかして…。」
ウィーナは驚きの表情を隠せないようだ。
イコスとアミダは「やっちゃったか…」というような顔をしていた。
ベカは恐怖を感じつつも苦笑いしていた。
…風が吹いてきた。
「ほう…短刀に何か秘密があるんだな…?」
ゲンガーがイエスに尋ねるように聞く。
しかしイエスは応えなかった、それどころか表情一つ変えていない。
少ししてからイエスが呟いた。
「何でだよ……。」
イコスはイエスと視線を合わせた。
悲しい目をしていた、今にも何かが溢れそうに。
(#44 O 08.06.01)
「…・……ん……よ…」
気付くとイエスが独り何かをぶつぶつ呟いている ベカは苦笑いしながら独り言に耳を傾ける
「…ざけんな……いいところ…邪魔…がって…俺は…助け…」
憤怒の顔を露にし、出される言葉も暴言を含んでいることが分かる そして・・・
「ふざけんなよ!」
イエスがベカを目掛けてナイフを振り下ろしてきた
長年のゲームで鍛えられた動体視力で何とか避けられたものの イエスは未だ殺す気むんむんのようだった
必死に後ずさりした しかしイエスが修羅の形相でこちらを見てくる 必死にベカはウィーナその他の元へと駆け出した
しかし悪夢はそこで終わっていなかった
深く5cmは地面に刺さったであろうナイフを引き抜いたあと チーターのような速さでベカ目掛けて駆けてくるではないか
聞けばイエスは陸上部に所属し 市大会でも何度か優勝したことがあると聞く
恐怖と絶望の涙で顔がぐちゃぐちゃのみすぼらしいベカと ナイフを握り殺気沸沸のイエスの差は秒を数えるごとに縮まっていった
アミダはふとゲンガーのほうに視線を逸らした 目の色は青に変わっていた
(#45 B 08.06.01)
「ボタンを押すんだよ!」
イコスは絶叫し、アミダに言った。
はあはあと息をせききって、その叫び声は狂気のごとく激しくなった。
「早く!」
アミダは慌ててモンスターボールを開く。
赤い光が、辺りを照らした。暗がりにいたゲンガーはその光を浴び、顔を苦しそうに歪めた。
光は空に飛び、姿を形成していく。
「やっぱワロタ」
そいつは魔女のような甲高い鳴き声をあげ、周囲の者をあっと驚かせた。
青と赤の幻影ともいえるそいつは、ぐるぐる沖天を飛び交い、アミダの肩の上に止まった。
「あー、そいつは、えっと。そう、ツバサ。
ツバメで、ツバサ。ね」
はぁ、とイコスはため息をついた。ウィーナは彼の心境を読み取り、そして同情した――ようだった。
何だかよく分からないが、アミダは肩の上のツバサを見る。
目つきは鋭く凶暴そうであるが、利口な顔をしている。
そのツバサの目は、アミダの指示を待っているようだ。
アミダはニコリとして、短刀に傷つけられるベカを指差す。鳥は肩から飛び立った。
イエスに向かって。そのゲンガーに向かって。
魔女のような鳴き声ををあげた。
(#46 I 08.06.01)
スバメことツバサはゲンガーめがけて光速で飛び向かい、「つばさでうつ」を繰り出した。
ゲンガーは突然の攻撃にひるみ、そのはずみでイエスにかけていた暗示をといてしまった。
が、すぐにゲンガーは立ち直り反撃し始めた。「サイコキネシス」だ。
その攻撃は直でツバサにあたり、とくぼうを下げてしまった。
ツバサは少し危ないと思ったのか、ゲンガーからイエスの手へと狙いを変え、
そして「でんこうせっか」で繰り出し、イエスの手からナイフを落とした。
ナイフは金属音をたて、地面に落ちた。イコスは咄嗟にそのナイフを奪おうと走り出した。
「お、おい!今近づいたら危ないんじゃ・・・」
ウィーナが大声で言うが、イコスは今までとは違う必死さでナイフを奪った。
次の瞬間、イコスはイエスを刺した。
あまりに予想外な出来事に、その場の者は皆硬直した。切り傷なんてものじゃない。わき腹にぐさり、だ。
「なっ・・・・・・イコス・・・!!何してんだ!!」
ウィーナは叫び、イエスはその場にわき腹を抱え地面に倒れこんだ。
「ちょっと・・・切り傷だけでいいんじゃなかったのか!?」
ベカもあせった表情で血のついたナイフを持つイコスを見た。様子がおかしい。
「切り傷・・・?そんなもんじゃダメだよ・・・・・・殺さなくちゃ。」
あまりにも残虐な言葉に、誰もが口を動かそうとしなかった。
「さっき、ウィーナ達にはこのナイフに特殊な薬を塗ってあるって説明したよね・・・でも、嘘なんだ。ごめんね。」
「じゃあ、なぜベカに行かせた。自分でやればいいじゃないか!」
「ベカは囮。様子見の為のね。・・・・・・正直に言うと、僕はイエスが憎い。」
(#47 N 08.06.01)
「僕はイエスが憎い。」
イコスはうつむいて、冷たく言い放った。その場にいた誰もが、凍りついた。
イエスのわき腹から流れる血が地面にポタポタ落ちる音だけが、静寂を破っている。
憎い?どうして?5年前2人で街に迷い込んだときに、イエスの代わりに人質を買って出たのに?
魂だけが復活してウィーナたちに涙ながらに、必死に話したあのことも、全部このための嘘なのか?
「・・・どうして・・・だ」
イエスが苦痛に顔をゆがめながら言う。
「どうして・・・俺が憎いんだ・・・?」
イコスはしばらくうつむいたままだったが、さっと顔を上げて、空を見上げて言った。
「そうだな・・・僕が人質になるって言ったときに、君は止めなかった。それからかな」
「でもそれは・・・お前のためにだろ・・・」
「最初はそう信じてたけどね、まさか罪のない人を犠牲にするなんて、恐ろしい犯罪の片棒をかついだだろう。
その瞬間僕の中でなにかが切れたんだよ。もうダメだ、ってね。それなら僕が助かっても、犠牲になった多くの人はどうなるのさ?」
イコスはそう言い放ち、冷たい視線をイエスに向けた。
「だから僕は君を殺すんだ。もう犠牲はいらない。これで終わりにしたい・・・」
イコスはズボンのポケットの中から、もう一つのモンスターボールを取り出した。
ボールを静かに上に投げた次の瞬間、赤い光と共に勢いよく飛び出してきたのは―
大きさが通常の2倍はあろうかという、マルマインだった。
(#48 W 08.06.01)
「そして、僕も死ぬ。」
イコスのその言葉からは何か悲しさのようなものが感じられた。
「今からこのマルマインを自爆させる。」
そう言いつつイコスはイエスに刺さっているナイフを抜き、イエスを仰向けに倒した。
そして、イコスはマルマインをイエスの上に置き、支えるかのように密着した。
「マルマインに密着している僕とイエスは死ぬだろう、間違いなく。」
「君達も傷は負うだろうがそこまで酷くないはず。」
アミダは突然の状況の変化に対応できず、棒立ちになっている。
「そんな…危険だよ…!」
ウィーナが言った、が、イコスは耳に入れようともしていない。
ぽつ、ぽつ、と雨が降ってきた。
さて…さっさと爆発させたほうがいいか。
「さようなら。」
そういうとイエスの腹の上のマルマインが、赤黒く光り始めた。
ウィーナ達はおろか、ゲンガー達でさえも身動きがとれなくなっていた。
「そんなのダメだぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!11」
そう叫んだ瞬間、ベカはマルマインを力いっぱい押した。
マルマインは耳が痛くなるほどの音をたてて爆発した…。
(#49 O 08.06.02)
"ズドーン"や"ドカーン"などの擬音語では言い表せない 爆発音が鼓膜と心臓に響き渡る
体が浮き上がり 炎と風に吹き飛ばれる
"待て!"と言ったときは 吹き飛ばされた後だった
遅かった
手を伸ばしても 二人には届かなかった
距離はだんだんと離れていく
15mほど飛ばされ地面を引き摺られ うっすらと昏倒していたが 目は明けられるようだ 現状確認のため目を明ける
ゴーストタイプだからか傷一つ無い三人組と その横に在る燃え粕は…
(#50 B 08.06.02)
マルマインは口の端をニィっと吊り上げて、イエスを見下している。
ビリビリと火花のような電流が、紅白の爆弾にほとばしった。
憎まれているなら仕方がない。
イエスはそう思った。
大爆発は、ゴーストのあいつらには効かない。
つまりイコスは、俺だけに的を絞り、俺1人をとっちめようというのだ。
知って、俺は本当に憎まれているのだと痛感させられた。
背筋にちくちくするような、冷たい痛みが走った。
逃げることはもうしない。彼の苦しみを、断ち切りたい――
「そんなのダメだぁ!」
――飛びこんで来る者がいた。
あの3人の中で、一番弱虫だと思われた人間だった。
名前は忘れたが、そいつは果敢に俺の手を取り、力強く引っぱって爆弾から逃れさせようとした。
しかし俺は、その手をも断ち切ろう。
「来るなぁ!」
そいつの手に、俺は爪を食いこませた。
小さな悲鳴をあげるが、そいつは歯を食いしばり俺の手を離そうとしなかった。
マルマインから焦げくさい臭いが漂い始める。
「来るなぁ!」
ついに俺はそいつを蹴飛ばした。
脇腹から血が飛び出す。視界は歪み、割れ、切り裂かれ、真っ暗になった。感覚という感覚が全て消えた。
そいつがどうなったのか、分からなくなった。
だが、もうどうでもいい。
無事かどうか、知ったことではない。
どうでも、よくなった。
その爆発の痛みなど、イエスにはもう感じ取れなかった。
(#51 I 08.06.02)
死んだ、かな。
覚悟はしきっている。
わき腹の傷なんて痛すぎて痛みを感じない、という感覚だった。
爆風で閉じた目を開いた。
いや、死んでいない。
まだ、ここにいる。おかしい。
はっと我に返ってマルマインのいた方向を見た。
そこには、イエス達をかばうようにツバサがいた。
イエスから短剣を切り離し、その後どこへ飛んで行ったかと思っていたが
目の前に当のスバメが、緑色の透明な壁を張り巡らしていた。
「まもる」だ。
煙が薄れると、ツバサはその場から羽を羽ばたかせながらアミダ達のもとへと飛んだ。
「余計なことを・・・・・・」
イエスはそうつぶやくと、一気に全身の力が抜けたように気絶した。
わき腹からは、既に大量の血が流れている。
勿論、そう思ったのはイコスも同様のようだった。
(#52 N 08.06.02)
ツバサはアミダの肩に止まって、優しく微笑んだ。いや、そう見えたのかもしれない。
とにかく、最悪の事態は防げたようだ。
大爆発を見事に防がれた巨大マルマインは、もはや見る影もない燃えかすになっていた。
夜の闇の中、イコスとイエスはまだ冷たい目でにらみ合っている。
「・・・どうする、つもりだ」
出血多量で息も絶え絶えなイエスが言った。イコスは立ったまま答えない。
「俺を・・・殺すんじゃなかったの・・・か」
イエスはなぜか無理やり笑顔を作った。それでもイコスは何も言わない。
イエスたちの数メートル後ろにいたウィーナとアミダも、小声で話し合っている。
「どうする?イエスが、イエスが危ないよ?」
「どう・・・って言っても、この雰囲気じゃどうにも―」
「あいたっ!」
突然の叫び声に、ウィーナとアミダはびっくりして振り向いた。
どうやらウィーナたちのさらに10メートルぐらい後ろで転がっているベカを、誰かが踏んづけたらしい。
その「誰か」は息を切らして走っていて、ウィーナたちの真横で止まった。
この特徴的なシルエット―そうだ、グラップだ。
「・・・なんなんだ、これは・・・!?爆音がしたから出てきてみたら・・・・・・」
暗闇の中でも、グラップの顔が恐怖にひきつっているのが見えるようだった。
(#53 W 08.06.03)
「…計画通り…!」
イコスが呟いた。計画…?
「イコス! 何故貴様がここに!?」
グラップが顔を引きつらせて云う、しかし、恐怖は感じているようだ。
「さぁ、何故だろうね…ただ、アンタと側近達には…。」
イコスが一旦言葉を止める、雨はザーザー降っていた。
「死んでもらう。」
イコスはそう云うと袖の中からあるものを出した。
「な…あれは…モンスターボール!?」
ウィーナが驚きの声を上げる。
イコスはモンスターボールを投げた、中身は…
「ボーマンダ!」
アミダが云った。
「イコスの野郎…モンスターボールを持って…。」
ウィーナが苦笑いしながら云う。
完全に忘れ去られていたベカが立ち上がる、しかし
「もうだめぽ」
そう云って地面に倒れこんだ。
(#54 O 08.06.04)
「はははははは! "死んでもらう"って!!"死んでもらう"って!新手のギャグか!? 片腹痛いわ!」
その言葉を聞いたグラップが、茶化しながら手を叩き大笑いする
予想外の反応に一瞬呆気に取られたイコスだったが
「生意気なポケモンだ、その笑いは作り笑いか?
殺されるのが怖いからやせ我慢で笑っているのか?ん?」
こちらイコスも負けじと反論した
回って次はグラップが嘲笑する番になる
「はははっ。何を言うかと思えば面白おかしいことを言うわ、人間が
ポケモンが居なければ右も左も分からんのに ポケモンを持った瞬間この態度か 本当に人間とは馬鹿馬鹿しいな」
まるで中学生のような喧嘩に呆れてきたイコスが 話を進める
「まぁいい お前はすぐ俺に殺されて死ぬんだ なんとでも言っとけ糞ポケモンめ」
嫌いな人間に"糞ポケモン"と愚劣されたことが頭にきたのか グラップは一言だけこう言った
「馬鹿が…」
グラップの影が揺らぐ
(#55 B 08.06.07)
瞬間、グラップの影が蠢いた。
影は蛇のように動き、地面に伸びる木の影、ポケモンの影、人間の影、すべてを飲みこんだ。
ゲンガーとムウマージはすぐさまそれに溶けこみ、グラップの影と1つになった。
影は目を開いた。
彼の影からは、青に光る目がいっぱい覗いていて、ウィーナたちを睨みつけていた。
「俺はお前らじゃない」
覗いていた眼の本体が、影の中から少しずつ顔を出して、ふわりと浮かび上がった。
それは、見たこともないポケモンだった。
頭の白髪を逆立たせ、顔のまわりを赤い棘で飾っている。
全身が夜の色に染まり、それはまるで影そのものだった。
「ダークライ。図鑑にも載っていないポケモンだ」
グラップの瞳が、その影の目と同じ色を宿していた。
(#56 I 08.06.07)
「ダークライ・・・か。なるほど、ただ者じゃなさそうだな。」
イコスはあくまでも冷静を装っているが、暗闇に包まれていなければ、彼の足が小さく震えているのを見ることが出来ただろう。
「でもその力はどうかな・・・ボーマンダ、ドラゴンクローだ!」
イコスが叫ぶと同時に、ボーマンダはロケットのように垂直に飛び上がり、一瞬静止した後、ダークライに向かって急降下した。
ダークライとグラップは微動だにしない。あと数センチでダークライに直撃しようかというところで、ダークライの目が青く強く光った。
そして次の瞬間、轟音と共に青い光線がボーマンダを貫いた。ボーマンダはそのまま崩れ落ちた。
「見ての通り、破壊光線だ」
その場にいた皆が言葉を失った。至近距離からの破壊光線―ボーマンダはもはや生きてはいまい。
「なんで・・・こんなことをする」
イエスがうめいた。わき腹からは、まだ血が流れ続けている。
「ほう・・・まだ生きていたか。俺の目的はコイツを使ったこの世の独裁だ」
「最初に俺に台本を書かせたときに貴様はなんと言った!」
「人間になって旅をしたい―最初はそうだったがな、まあこの人間どもが計画をどんどん破ってくれる。
俺の中の『ニンゲン』のイメージが変わった。こんな種族になってどうする。そう思った時、俺はコイツを使うことを思いついたってことだ・・・。」
グラップは顔を上げて、せせら笑うように続けた。
「さあ、時間は取りたくないんでね、貴様らも粉々にしてくれる。これで終わり・・・いや、俺の時代が始まるのだ。」
ダークライの目が、また青く輝きだした。
(#57 W 09.01.03)
「独裁…? 俺の時代…?」
今まで空気化されていた感じが若干しないでもないような気がするベカが発言した。
「そうゆうの…いけないと思います…。」
ゆっくりと立ち上がるベカ
それに対するグラップは
「なんぞお前は…?」
「ええっと…アミダ?」
ベカの顔が明らかにさっきと違う、何か…強大なものに立ち向かうようなアレ…
「え…何…?」
「あのとき手に入れた"エレキブースター"あるよね?」
「あ、あるけど…。」
もう読者のみなさんもお分かりであろうが敢て口にはしないでほしい。
「ハハッワロス、今更何をしようが遅いのだよ諸君。」
グラップが挑発…いや、余裕を見せる。
そのときベカがモンスターボールを持ってニヤけてたのには誰も気づいていなかった。
(#58 O 09.01.05)
「この世の独裁って……なんていうのかな、規模がでかすぎるっていうか……
まあよくわからんですけど……たぶん司法が赦さないっていうか……
もしそんなことこの世界でしたら……連日ニュースのネタになるし……」
ベカが薄気味悪いニヤニヤした顔を浮かべながらグラップの方に歩を寄せる。
「……?どうしたベカ……?」
ウィーナの疑問系が場に響いたが、響いただけで、そのまま空気に吸い込まれていった。
「簡単に言っちゃったら……ダメ、です。はい……ダメですよ……
結構独裁とか困るし……なんか色々起こりそうですし……まだゲームして暮らしたいし……
というわけで……えーと、あなたをここで殺せば…いいのかな?」
ベカが右手のモンスターボールのボタンをかちりと鳴らす、一瞬でモンスターボールが肥大化する。
「欲しかったんですよね、エレキブースター。」
モンスターボールから赤い閃光が四方に飛び散り、その中の一つがポケモンを赤く具現化していく。
「えっと、エレブーに持たせればいいんだったっけ?」
(#59 B 09.01.06)
「口調うぜえ」
アミダがそう呟いて間もなくスバメがエレキブースターを咥え、空からベカの頭の上に落とした。
ベカの頭がごつんと鈍い音を鳴らす。ベカは倒れる。
「いいぞよくやった」
イコスとウィーナも含めた3人が、それぞれハイタッチをかわす。
それらにイエスも加わろうとするが、腹部の痛みはまだ癒えない。
ベカが倒れる拍子にモンスターボールから赤い閃光がほとばしり、荒い鼻息を立てるエレブーが姿を現した。
エレブーは鼻を鳴らし、足下に落ちる黄色の長方形を見た。彼は本能に従ってそれを掴もうとする。
「させない」
突如ダークライがエレブーの背後から飛び出し、黄色な獣を羽交い絞めにした。
同時にグラップの影もまた、ベカの取りこぼしたエレキブースターへと影の手を伸ばす。
エレキブースターは、ベカの頭上に鎮座している。
「まずいよ、スバメ。"電光石火"!」
アミダの指示を仰ぐ前から、スバメは既にベカの下へ飛び降りようとしていた。
ぐんぐんと速度をつけ、スバメは落下に近い飛びを見せた。
流れ行く景色の中、スバメは地面に落ちる長方形だけは見逃さずにいた。
グラップの影は間もなく、エレキブースターの一歩手前へと迫ろうとしていた。
(#60 I 09.01.06)
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