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なんというか、驚異的な回復力というか、
さきほどのエレキブースターの直撃によりぶっ倒れていたベカが
突然両腕を支えにしてがばっと起き上がった。
その勢いで、頭に鎮座していたと言われるエレキブースターはベカの後方にまた鈍い音を立てて地面に落ちた。
起き上がったベカがまず目にしたのは、ほぼ垂直落下するスバメだった。
スバメもこのタイミングでベカが復活するとは思っていなかったのだろう、
驚いて着地に失敗し、少しダメージを受けた。
ベカはというと状況が把握できず呆然としている。

「あ、とられた」
ウィーナが一言。
グラップの影が既にエレキブースターを手にしていた。
影に引っ張られていくエレキブースターはそのままグラップ本人の手に。
「いいのかあれ?アミダのだったよな?」
イコスに問われるアミダ。グラップの手に渡ったエレキブースターを遠い目で見ながら答えた。
「見つけるの大変だったんだけどなぁ……でもベカにとられるよりマシだね。」
そして苦笑。

「今のは聞き捨てならんッ!」
周りが気づいたときには、ベカはすでにしっかりと気を持ち、
グラップの手にあるエレキブースターめがけてジャンピングしていた。     (#61 N 09.01.06)



「うおおおおお!」

ベカは雄叫びを上げて、グラップの手にあるエレキブースターに突っ込んでいった。
それに気付いたグラップは、反射的にエレキブースターでベカの頭をぶん殴った。
奇妙なうめき声を上げて、ベカは潰されたように地面に突っ伏した。

グラップはそれを見て大笑いした。横に浮かぶダークライも、体を震わせて笑っているようだった。
「エレキブースター、ワシも初めて見るが……」
グラップはエレキブースターをあらゆる方向から見た。そして、少しおかしいことに気付いた。

カギがかかっている。ごく簡単な、いわゆる南京錠というやつだ。

ちょうどベカをその部分で殴っていたので、カギは壊れていた。
グラップはカギを取り外してエレキブースターを開くと、中には淡く光る黄色い粉が詰まっていた。

「これは…まさか―」
グラップが何かに気付いて蓋を閉めようとしたそのとき、
地面に倒れていたベカがグラップの足をつかんだ。エレキブースターに対する執念の賜物である。
そして足をすくわれる形になってバランスを崩したグラップは、エレキブースターを落としてしまった。

黄色い粉があふれ出る、グラップの顔がゆがむ、アミダがすかさず叫んだ。
「ツバサ、"おいかぜ"!」
ツバサはアミダの命令を受けて、小さな翼を力強く振った。風を受けた黄色い粉は、グラップとダークライに降りかかった。

「しびれごな」だ。

2つの黒い影は、まったく動かなくなった。目だけは鋭く、アミダをにらみつけていた。     (#62 W 09.01.07)



「クハハハハハハハ!!」
グラップは激しく甲高い声で笑った。
「やってくれたな人間共め、痛かったぞ…今のは痛かった…。」
怒っている、粉が目に入ったらしく右目を左手で押さえている、もっとも左目も充血はしていた。
一方、ダークライは全く効いたようには見えない。"ラムの実"でも持っていたのだろうか。

「これ以上長引かせると面倒な事になりそうだな…。
 そうだな…一匹ずつ、確実に始末してやろう。」
そう言ってグラップが指を鳴らす。
するとどうしたことだろう、ダークライを中心に黒い霧…霧が集まってるではないか。

「まずは足元の餓鬼…」
そういうとグラップは後ろに飛び退いた。
「なん…だと…。」
思わずWiiNaが言った。
恐ろしい光景が目の当たりにされたからだ。     (#63 O 09.01.07)



ベカとグラップの場所を中心としてゴールドに輝く粉が宙を舞っている。
「まずは足元の餓鬼……」
グラップが独特のバスでそう言葉を言った時だった。
「なん……だと……」
思わずウィーナの口から吃驚の声が漏れた。
黄色の粒達がうつ伏せになっているベカの頭上で渦を巻き始めたではないか。
それも、ボルト選手並みの物凄い速さで直径を広げていく。
ベカは問答無用に、ダークライは地面に潜ることが出来たが
グラップは予想外の竜巻の広がる速さにその精巧な動体視力をもってしてでも避けることは出来なかった。
「逃げろ!」
ベカのことなど忘れてアミダが叫ぶ。だが時既に遅し、ボルトに勝つことは出来なかった。
「うわあああああああ」ウィーナの叫びは竜巻の中に消えた。
「だめだめだめしぬってこれしぬ!」アミダの叫びも竜巻の中に消えた。
「………」竜巻に抵抗もせず呆然と立ち尽くすイコス、そのまま竜巻の中に消えた。
ついでにスバメも空気読んで竜巻の中に消えた。
(なんか…異世界に行きそうな感じがする……)
直感だが、そんな気がした。     (#64 B 09.01.07)



体を切りつけるような、突風と突風のぶつかり合いだった。
足場がない。一ヶ所に留まってはいられない。強烈な風に手を引かれ、彼らは嵐の中を何処までもたゆたう。

ここは何処だろう、ウィーナはそう思った。
分かる事は、ここは自分のいるべき場所ではないということ。
ここを出よう、と思う。
しかし手足は自在に動かず、思考はとろけていく。

今の彼ではこの嵐の中すら、優しくて心地よいものに思えた。
ベットではない。ここはゆりかごの中だ。生まれる前にいた、胎内だ。
やがて彼は思考することをやめた。眠たいのだ。
周りは黒と白とを織り合わせた風が一面に吹き荒れているが、もはや彼の視界には映らなかった。

ああ、眠たい。眠りが欲しい。

「"ダークホール"」

その声とともにウィーナは嵐の中、眠りについた。     (#65 I 09.01.08)



痛い。体が思うように動かない。指先や目など細かいところは動く。
しかし、いざ体を大きく動かそうとすると激痛に似た痺れが全身を走る。
イコスは打開策を練ろうとした。そのとき、声が聞こえた。

「"ダークホール"」

しまった……皆眠っているのか!
嵐の中、首を少しずつ、激しい痺れに見舞われないよう横に向ける。
ウィーナとベカとアミダは……眠っている。イエス、ツバサは体が麻痺しているようだ。何故かエレブーは棒立ち。
が、距離が遠い。この轟音の中では声を出しても届かない。
唯一近くに居たのはベカだった。可哀想だが……起きてくれないと困る。

体の痺れを我慢し、イコスはベカの鼻を痛々しい音がするほど、噛んだ。
「……痛い!!!」
ベカは顔を赤くして叫んだ。悲痛な叫び声。
寝ている奴の鼻をクワガタではさんで起こす某番組のような……いやどうでもいい。

「ベカ!起きろ!頼み事があるんだ!」
「マジ鼻痛いっすもう無理泣いていいですか」
「あぁ、泣いた方が目に粉が入りにくくなっていいと思う。それより、状況は分かってるか?」
「わかんないです……頼みごとって何?鼻痛い」
「そこのエレキブースターをとれ。エレブーに投げろ。ただし途中で寝るなよ!」
「もし取りに行く途中で……ゲホッ……寝ちゃったら……?」
「ははっ……殺すよ」     (#66 N 09.01.08)



イコスの声はさわやかだったが、今まで以上に殺気に満ちていた。
ベカは目に涙をため、鼻を押さえながら、周囲の状況はいまだに分から なかったが、
とにかくエレキブースターを急いで取ってこないと自分の命がないことだけはよくわかった。 

わかったからには動かねば。ああ頭がクラクラする。
でも途中で倒れてエレキブースターが取れなかったら殺される。
ベカは渾身の力で立ち上がる。目的の物を見つけて千鳥足で近寄る。
何か踏んづけた、ウィーナのどちらかの足だろうか、気にしている暇はない、ベカは少しずつ黄色い箱に近づいていく。
あと3メートル…膝が震える、でも動けるのは俺だけなんだ、2メートル…ああ眠い、これがダークホールの力か。
1メートル、手を伸ばせば届く…ついに膝が地面に落ちた。それでも腕を思い切り伸ばして、黄色い箱をつかんだ。

そしてこれをエレブーに投げつけるだけだ。120%の力を出して腕を振り上げる、そして投げる―

―投げようとしたとき、ベカの腕が止まった。ある1つの考えが、もやのかかったような脳に突如浮かんだのだ。

「待てよ、これはエレキブースターの偽物、ただの黄色い箱なんだから、こんなの投げてもエレブーはなんともないんじゃないか?
 イコスは何を期待したんだろう?ひょっとしてこれでエレキブルに進化してみんなを救うとでも思ったのか?
 ……イコスもまだまだだな、このベカ様のエレブーがそんなオマヌケなわけないだろうに…。
 とはいってもミッションを遂行しないと殺されるしな…まあいいか、投げるだけ投げてみようか、そしてあとでイコスを笑ってやる…。」

ベカの考えはまとまった。そして腕を振り下ろす―黄色い箱は狙いたがわず、相変わらず棒立ちになっているエレブーに当たった。


次の瞬間、ベカのエレブーの体が白く輝きだした。白い光はどんどん大きくなり、数秒後には立派なエレキブルになっていた。

「やった、よくやった、ベカ!そしてエレブー…予想どおりオマヌケだったな。やっぱ主に似るってやつかね。」

イコスが快哉を叫んだ。そしてベカは、「お前なんやねん…」と一言うめいて、また倒れた。     (#67 W 09.01.10)





さて……ここからが本番だ、嵐が吹き荒れる中イコスは思う。
イエスもあのスバメも痺れて気を失っている……動けそうにない……他のものも眠っているし……
そういえばグラップとダークライの姿が見当たらない。まあ大方渦の中心にでも隠れてるんだろう……

「……ッ」
瞬間、イコスは目を疑った。
竜巻が……竜巻が膨張を始めたのだ。
このままでは巻き込まれる……急がなければ。
イコスの表情は険しくなる。
だが弱音は吐いていられない、イコスは全ての力を振り絞ってエレキブルへ奔る。
そのとき、イコスの近くに雷が落ちる。
エレキブルのほうに吹き飛ぶ、イコスは意識を失っていない。

「危なかった……」
イコスの表情が更に険しくなる、ここからどうするか……
考えている間にも竜巻は膨張を止めない、あと1分もしないうちに飲み込まれるだろうな
「……そうかッ!」
天気は嵐……大雨! 電気タイプのコイツが活躍できる最高の天気だ!
「エレキブル! あの渦の中心に思いっきり雷だぁ!」
イコスの声はまもなく轟音にかき消されたがエレキブルにはしっかり伝わったようだ。
エレキブルがばんざいをする。
雨の力で2倍に、必中になった雷が渦の中心に落ちた。     (#68 O 09.01.10)



イコスの声を確認したエレキブルは、その声を待ってましたといわんばかりに、蛮声を張り上げ、両手を大きく振りかぶる。
進化直後のエレキブルがその有り余る電力を低い呻きと共に両手から空気中に放出する。
それからたった数秒で、竜巻の中からでも確認出来るようなどす黒い雷雲を竜巻の上空に作り上げた。
先走った電流が黒い雲の周りに真っ白な光を蟻の巣状に張り巡らすのが見えた。
ミリ秒単位で巨大化していく雷雲、5秒も経ったところで雷雲は竜巻に覆いかぶさるくらいまで大きくなった。
それを合図にエレキブルが両手を下に振る。四半秒後、それに呼応した一筋の雷雲が、
雲から刹那の間に数十万アンペアを纏った閃光を真っ逆さまに、逆円錐状の竜巻の中心へと振り落とす。
その光は一瞬にしてイコスの視界を真っ白に染め上げ、何も見えなくした。
「―――――!」
下方で何か叫ぶような声が聞こえたが、それは閃光と共に落ちてきた爆音により無理やりかき消された。

「んー……んっ」
仰向けになっていたアミダが目を開くと、空は一面真っ青の晴天だった。
あれ?さっきまで変な場所に居たような…?そんな疑問を抱きつつふと左を向くと…     (#69 B 09.01.07)



――エレブーは電気タイプによく見られる体質を持った、面白いポケモンなんだ。
彼らは防衛本能の1つとして、絶えず体外に微量の電磁波を放出している。いわゆる"せいでんき"というやつ。
せいでんきに長時間触れていると、強度の麻痺状態に陥る。痺れ粉のそれとは比べ物にならないほどのね。
それにも関わらずダークライはエレブーに密接し、両腕で束縛し続けた。
痺れ粉を食らっても何の素振りを見せなかったのは、せいでんきを浴びていて既に麻痺状態だったからだろう。
つまり、今のダークライは指1本動きやしない。だからダークホールなんて大技を使った――

「相手は麻痺なんだから、影に隠れる暇もないはず。
 かみなりは当たるだろ」

そう言ってイエスは言葉を切った。
この頃になると体は動かないものの、すっかり言葉を話せるようになり、痛みが思考の妨げになることもなくなった。

嵐を別つほどのかみなりは、地面を大きく陥没させていた。土がほのかに赤く燃え、黒い煙がくゆっている。

「確かに、攻撃は当たったようだが…?」

イコスはそう言うと、かみなりの被害が特に激しかった西の方角を見た。
黒焦げて、盛り上がった地面の上には2つの影が行き場のないように蠢いていた。     (#70 I 09.01.10)



アミダは体を起こした。空は晴天です。眠い。今日で睡眠何回目ですか。
先ほど体を起こす前に左を見たとき、ベカとウィーナが目に入った。
ウィーナは寝息を立てている。眠っている。ベカは目を開いているがぶっ倒れている。

寝てる人を起こすのは悪いなと思い、ベカに質問をする。
「おいベカ、何でそこで地面に横になっている?」
「痺れました……」
痺れた? 嗚呼もしかしてエレキブースター争奪戦の最中であの粉が……

しかしその後どうなったかよく覚えていない。どうして眠ったのか。
とりあえず何が起こったかよく分からないので暇つぶしにベカのリュックを漁ろうか。
「何してんですかアミダさん窃盗ですかスリですか」
「なんとなく今更中身が気になって」
モンスターボールが2つある。元エレブーも含めて3匹の手持ち……くれよこれ……

「これ勝手に使わせてね!!」
2つのモンスターボールを許可なく奪ってボタンをカチリ。
赤い光を帯びながら現れたのはバシャーモとラッキー。バシャーモはベカの趣味だろう。
「あああああ何勝手にうわあああああああ」
足元から涙ぐんだ叫声が聞こえるよ!仕方ない!戻せばいいんだろ!

もう一度ボタンを押し、バシャーモとラッキーをモンスターボールに収めた直後だった。

黒い影が地面を這い近づき、伸びた黒い手が足首を掴み、引っ張り――     (#71 N 09.01.10)



影のひとつがアミダの足首をぐっとつかんだ。
アミダがそれを振り払おうとするより前に、影の手は彼女の足を思いっきり引っ張った。
防御する間も無く地面にダイレクトに叩きつけられ、辺り一面に響く悲鳴を上げ、それでもなお影はアミダを容赦なく引っ張っていく。
イコスとイエス、そしてまだ寝転がってるベカは、この一瞬の出来事にただただあっけに取られていた。
影は雷の影響で盛り上がった地面で止まった。
もう一つの影も寄り添ってきて、二つの影は七輪の上の餅のように膨らみ、やがてグラップとダークライになった。
どちらも体中傷だらけで、苦痛に顔をゆがめている。地面の陥没とともに、エレキブルの雷がいかに強烈だったかを物語っている。
「やってくれたな小僧…俺たちが影になるのが一瞬でも遅かったら黒コゲにされていたところだ…!」
グラップとダークライは、イコスがエレキブルに雷を指示したのを聞いて、すばやく影になって身を隠したのである。
それでも電撃を浴び、無傷ではいられなかった。

「今度は貴様らが恐怖する番だ。女を人質に取った。そして、まあ予想外のことだったが―
 切り札になりうるポケモンもこっちのものだ。もう、お前たちに戦力はないだろう!」

グラップが顔を歪めて笑う。
イエスは歯軋りして地面を叩いている。ベカは「僕のバシャーモが…」とこの期に及んで非人道的なことをのたまっている。
そしてイコスは胴体に風穴を開けられたボーマンダを見つめている。今こいつが戦えたら……

「…ウィーナは?」

イコスがふと気付いて言った。確かにダークホールを食らって眠っていたはずだが、いつの間にかいなくなっている。
さらにツバサもいない。1人1匹でも多くの味方が必要なときに、一体どこに消えてしまったのか。     (#72 W 09.02.09)



拘束されたアミダ。
ベカは地面に倒れており、イコスはすでに死力を尽くしきった。
敵のダメージも0なわけではない、ただこちらに戦力がない……

「イエス……」
イコスがそっと呟く、それにイエスは気づきイコスを見つめる。
「頼んだ……ぞ……」
そう言うときらりと光る何かの欠片をイエスに投げ地面に倒れこんだ。
「こいつは……”げんきのかけら”!」
「いけぇぇ!」
イエスがボーマンダの口へと目掛けかけらをほうり投げる。

「させるか!」
ダークライの”あくのはどう”だ。
かけらは無残にもはるか遠くへと弾き飛ばされてしまった。
「……もう……ダメなのか……」
イエスが囁く、しかしそのとき…黒い何かの影がかけらを保守し、
ボーマンダの口へとほおり投げる。それは見事にターゲットの口へ入った。
「その影は……ツバサか!」
イコスの表情が明るくなった。唖然するグラップ達、さらに──
「うおおおおおおッ!」
その瞬間にどこからともなく現れたウィーナはアミダを拘束してるグラップを力いっぱい殴りつけた     (#73 O 09.02.28)



ウィーナが現れたことはとても嬉しいことだったのだが、
今はそれどころでは無い、早くグラップ達を始末しなくては。
ボーマンダのことも心配である。げんきのかけらを使って再び戦える状態にまで戻したことはいいものの
肢体には軽いものから深いものまで様々な傷を負っているのだ。
戦えなくなってしまうのも時間の問題である。なんとか戦える間にグラップをしとめなければならない。
そして技を繰り出す際もなるべくボーマンダの体に負担がかからない技を選ばなくてはならない。
今はボーマンダだけを命綱にしているのだから。
「ボーマンダ!火炎放射だ!」
触れてない者でさえ焼いてしまいそうな灼熱の業火がボーマンダの口から放たれ、
ツバメの飛行のようにストレートに滑空する。
「クソッ…」グラップがぽつりと呟く。
炎はグラップに当たり、そこを中心として逆円錐型の大爆発を引き起こす。
これはグラップにも大きなダメージを与えたに違い無いだろう。
「やったか?」
あの威力の火炎放射を喰らって耐えるポケモンは数少ないだろう、
ダークライは雷を喰らいダメージを受けている、なおさら耐え難いダメージであると思う。
ゆっくりと黒煙が薄れてゆく、しかしそこにグラップの姿はもう無かった。予想内ではあるが。
「ボーマンダ!奴は地面に潜った、地面をよく見るんだ!」また咄嗟にグラップは地面に潜ったらしい、
地面から出てきたところを返り討ちにしてやるつもりだ。
地面をよく眼をこらして見る。変な動きは特に無いが、奴はいつ出てくるかも分からない、目を離すことは出来ない。
「イエス!上だ!」ふとウィーナの声が耳に響く。
振り返るとボーマンダの上にはすでに悪のはどうを出す準備が完了したグラップが居た、想定外だった。     (#74 B 09.03.08)



「へっ」

不意に、グラップの頭上から下品な笑い声が降ってくる。
そいつの姿は地上からでも確認できたし、そいつが今から何をしようとしているのか、彼らは理解した。

「…"電磁浮遊"か」

グラップは振り返る。"悪の波動"を撃つ姿勢を保ったまま。
宙に浮くエレキブルは主人を頭の上に乗せ、両手をグラップの方向へ突き出していた。

「いくよ、エレキブル」

ベカの声とともに、エレキブルは両の掌に意識を集中させた。
神経の1本1本が緊張し、制御しきれなかった電気が体外に漏電した。

その音は細い木枝を折るよう、小鳥のさえずりのようだ。

進化したばかりだからか、体内の絶縁体が上手く機能していないようで、自身の電気で感電するのが分かった。
それでも頭上のベカにだけは電気を浴びせないよう、細心の注意を払った。

かみなりの時のように、上手くいくだろうか。
あれは広範囲で力押しの技だったが、今度は的を絞り、出力の調整もしなければならない。
狙うは目の前の男。男を殺さない程度の威力。
エレキブルは唾を飲み、両手に力を込め、

「"電磁波"」

電圧を解放させた。     (#75 I 09.03.08)



「おい、聞こえるか。」
暗闇の中でつぶやいてみた。近くにいると思われるムウマージに。
「聞こえるよ。」
すぐにムウマージから返事が来た。近くにいることは間違いなかったようだ。
しかしその声が右から来ているのか、左から来ているのか、位置は見当がつかない。
いくらゴーストポケモンだからといってもこの光のない空間じゃ見えない。

「いつ出してくれるのやら」
ゲンガーとムウマージはダークライの力により、いまこの空間にいる。
一応「待機しておけ」ということなのかもしれないが、
いつ出してくれるのかは知らない。また、外の状況もわからない。
自分たちには影を出入りする芸当はない。

気に食わないことが一つあった。
グラップが、自分たちゲンガーとムウマージよりもダークライを優遇していたことだ。
けれど実力はダークライのほうが上、というのは分かっていた。
それでもおいてけぼりにされるようなことは好きではなかった。

結構時間は経ったが、まだ出してくれるような様子はあまりない。
途中、グラップとダークライがこの空間に入ったような気がしたが、
すぐにその気配は消えた。

「はぁ、てこずってんのかね。」     (#76 N 09.03.19)



ベカは、うめきながら立ち上がった。
一緒に落ちたエレキブルが下敷きになってくれたおかげで軽傷で済んだ。
が、彼がまとっていた静電気のため、体のあちこちがしびれている。その動きはぎこちない。未完成品のロボットのように。

一瞬だった。
上空からボーマンダめがけて悪の波動を撃とうとしたグラップを見て、
ベカはとっさの判断でエレキブルに飛び乗り、「電磁浮遊!」と叫んだ。
それ以上言わなくても、エレキブルは主の考えを即座に理解した。そして強烈な磁力を放って飛び上がり―

ボーマンダとグラップの間に割って入った。
グラップは完全に意表をつかれ、あわてて発射した悪の波動は凄い音を立てて空の彼方に消えた。


ここまではよかった。
しかし残念なことに、ベカの行動は完全な見切り発車だった。そのあとどうするかなんて考えてもいなかった。
どうする?あいつを倒せるのか?計画が外れて鬼の形相をしているそれと、戦ったらどうなるのか?

とはいっても完全なバカではなかった。彼は頭脳を最大限にフル回転させ考えた。
そして5秒で導き出された結論は、「動きを止めろ」だった。つまり、「電磁波」である。
エレキブルもまた命令に忠実に、進化直後の不安定な体でありながらも腕を構え、
適切な電力で、適切な強さで、そして適切なターゲットに、電磁波を放った。

それでグラップが倒せたら、あるいは少しでもダメージを与えられればどんなに楽だっただろうか…。

電磁波が発射されるやいなや、グラップは構えもしないのに全身から黒いオーラを放った。
言うまでもなく、「悪の波動」。そのあとはすでに書いた通りである。


その様子を離れたところで見ていたウィーナは、グラップの余りの強さに圧倒されながら、
冷静な判断力を失ってはいなかった。

「…なんでグラップが、ゴウカザルが悪の波動を撃てるんだ…?」     (#77 W 09.06.14)



ゴウカザルが悪の波動を覚えているということには、大きな矛盾がある。
ゴウカザルが戦いの途中で悪の波動を自動的に使用可能になったという報告は今まで無く、
「技マシン79 悪の波動」をゴウカザルに使用しても、ゴウカザルの中の抗体が技マシンを抗原と認識してしまい、ゴウカザルには効果が無い。
よって、ゴウカザルが悪の波動を使うことが出来る確立は0%のはずなのだが…。

だがしかし、今自分の目の前では、確かに"ゴウカザル"が"悪の波動"を使っていた、これでもよくポケモン研究所なんかに遊びに行っていて、
周りからは「ポケモンに詳しい」「ポケモン博士」なんて呼ばれていたこともあるぐらいだ、見間違えるはずが無い。

ウィーナの通知表で科学的思考がAランクだった頭脳が回転しはじめる。
考えられる要因としては二つ、「グラップが突然変異種で偶然悪の波動を覚えてしまった」ということ、
又は「ゴウカザルの仮面を被ったポケモン」だということである。

どちらかというと、考えられる可能性は後者のほうが高いだろう。
何故かといえば、とある博士から聞いた話ではポケモンの突然変異種は百数十年前に確認されたのが空前絶後、
いわゆるそれより前にも発見されてなく、それから今までも一度も発見されてはいない、ということだ。
そんなことを思い出したとき、その博士が「オタクの笑み」を浮かべ、嬉々として話していた言葉を思い出した。
「でなぁ、なんと、その突然変異を起こしたポケモンはなぁ、体裁は変わっていないんだが、
 なんと力が普通のポケモンの数倍、十数倍だったそうでなぁ、並のポケモンじゃあ歯がたたなかったそうだぁ。
 何のポケモンだったっけか? まぁいいや。
 数日かかってそのポケモンを封印?だかなんだかしたそうだが、もしかしたら今も生きてる…?
 ううん、いくら強くてもそんなことはないかぁ、はっは、会ってみたいなぁ、学者としての本能が疼くなぁ。」     (#78 B 09.06.19)



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